JOURNAL とは?

1996年、学生ベンチャー[エイベック研究所]としてインターネットの大海に船出したクオン株式会社。世界の誰もがつながりうる社会に「コミュニティ(多様で生き生きとした、高品位な双方向ネットワーク)」を実現すべく、目まぐるしい技術革新や経営環境の変化に対応しながら、今日まで航海を続けてきました。このJOURNALは、ソーシャルメディアの台頭に見られる「つながる時代」に、ネットワークのクオリティ(Quality Of Network)の追求が重要なテーマと考えて社名に冠した、クオンの代表 武田隆が、各種メディアでの対談を通じて多くの企業経営人やアカデミアなどの識者から得た「学び」を掲載した「クオンの航海日誌」であると同時に、今もなお多くの人々にとって“気づき”につながる示唆を含んだ「知の議事録」でもあります。JOURNALの2本の柱「企業の遺伝子」「対談:ソーシャルメディア進化論」に通底する、事物の「量」では計りきれないその多様な内容に向かう眼差しが、インターネット時代を生きる皆様の羅針盤になれば幸いです。

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企業の遺伝子とは?

全国に546万社以上あると言われる日本の企業。そのそれぞれに理念、使命、時代を超えて受け継がれる個性があります。2012年から続くラジオ番組「企業の遺伝子」は、成長する企業の遺伝子の解明をテーマに、企業の経営者や社員の方をゲストに迎え私たちの心を揺さぶる色とりどりの企業の生命のストーリーを語っていただいく番組です。こちらのアーカイブでは、その内容を記事として掲載しています。 さらに書籍化した『企業の遺伝子』も、年に一回発刊しています。
(「企業の遺伝子」プロジェクトの詳細はこちら

メディアが発する情報の価値を測り続ける

株式会社ビデオリサーチ

<ゲスト>代表取締役社長執行役員 望月 渡さん

※2023年 収録

テレビの普及とともに、その価値を測るべく始められた視聴率調査。
メディアの多様化に伴い、測定方法をさまざまに進化させながら、価値の数値化を通じた社会貢献を続けています。

知花 ビデオリサーチは、私たち放送業界に身を置く者が日々お世話になっている企業です。テレビの視聴率やラジオの聴取率を調べてご提供くださっているんですよね。

望月 はい。総合調査会社として、国内でテレビの視聴率調査を核に、各種メディアデータやマーケティングデータなど最先端のデータを提供し、企業のマーケティング課題解決のトータルサポートを行っています。私たちの主たる事業はテレビの視聴率の測定ですが、そもそもテレビ放送が始まったのが1953年。記録によると、当時、テレビ受像機の数は全国でわずか866台だったそうです。

武田 そんなに少なかったんですか?

望月 そうなんです。その数年後、日本は高度成長期に入り、爆発的にテレビ受像機が増え、あっという間に100万台を突破しました。ビデオリサーチの創業は、テレビ放送開始から9年後の1962年9月20日。創立メンバーは、広告会社、民間放送局、測定機材のメーカーなど計20社で、いわばオールジャパンでの設立でした。

武田 テレビ広告が始まるタイミングで、関係会社が集まってつくったんですね。

望月 そうです。よく「公共の電波」と言われますが、放送は公共性のある事業です。総務省が管轄省庁として管理をしているのはそのためです。民間放送局の場合、収入源はほとんどが広告なので、広告のあり方、単価の決め方が非常に重要になる。そこで視聴率を一つの基準値にして、広告の単価を決めていこうということになったわけです。

受け継がれる創業者の公正・中立への思い

知花 初めての視聴率調査はうまくいったのですか?

望月 第1号の視聴率のレポートを出すまでには大変な苦労があったようですね。余談ですが、初めてレポートを出した12月22日を、2022年、勝手ながら「視聴率の日」に制定しました。当時、調査対象のエリアは東京23区と非常に限られていましたが、我々にとってはそれほど大事な日なのです。

知花 創立当時の出来事で、語り継がれているお話などはありますか?

望月 初代社長の森崎実が非常にストイックかつ清廉潔白で、彼がいたからビデオリサーチという会社がしっかり立ち上がったと言ってもいいほど大きな功績を残した人物でした。その森崎が徹底的にこだわったのが「公正」「中立」です。当時、視聴率は紙に印刷して放送局などに届けていました。印刷の元になる版下(はんした)として使っていたのが、測定した視聴率をコンピュータで出力した紙。当時は字が不鮮明で、版下に適したものではなかったのですが、森崎には「人の手を加えて新しい版下をつくってはいけない」という強い思いがあったんですね。

武田 人為的な操作はしないということですね。

望月 ある時、印刷会社の方が気を利かせて、出力された数字を鉛筆でなぞったものを版下にして印刷し、納品した。よほど不鮮明だったのでしょう。ところが、後でそれを知った森崎が激怒して、納品したものを全部回収し、なぞらないもので刷り直して再納品したそうです。社史にも「激怒」という言葉が使われていましたから、相当の怒りだったのでしょう。この「公正」「中立」に対する精神は、現在の我々にも染み付いていて、徹底的に守り通されているものの一つです。

全国同一方式での視聴率測定で人数もわかる

知花 そもそも視聴率というのは、どのように測ってらっしゃるんですか?

武田 たしかに。どうやって測っているのか興味ありますね。

望月 視聴率の測定に関してはかなり厳密に秘密性が保たれています。測定している現場を知られると、そこにあらぬ力が加わる可能性が出てくる。バイアスがかかることは絶対にあってはならないので、非常に気を使うところなのです。ビデオリサーチは2022年で創業60年を迎えましたが、視聴率調査はこの間かなり進化しました。ごく初期は、視聴率を測定してもらえるご家庭を決めて機器を持ち込み、テレビ受像機と接続して測定していました。そして見たチャンネルを1分ごとに紙テープにパンチ、つまり穴を開ける。その紙テープを記録メディアとして回収していたのです。

知花 小学生の頃、「うちのテレビに機器が付いていたら、応援しているアーティストの番組を見るのに!」という会話をしたのを覚えています。

望月 今も、視聴率の機器を見せてくださいと言われることもあるんですが、お見せするわけにはいかなくて(笑)。今はかなり小型になりましたが、当時の機器はびっくりするくらい大きいものでした。ただ当時としては画期的な機器で、この技術を東南アジアに紹介したこともあったそうです。そして今は視聴率を音で測定しています。

武田 音? 画ではなく?

望月 音です。長年の研究の結果、テレビから出てくる音を特定して測定するやり方が最も確実だという結論に至りました。音にも指紋のようなものがあるという考え方です。ある放送局がある時間に放送した番組や広告は唯一のもの。だからそれを音で特定し、視聴率という数字に置き換えるわけです。

知花 すごいですね!

望月 日本の放送エリアは32に分かれていて、そのエリアごとに視聴率調査を行ってきました。ただ、日本全国同一方式で視聴率を測定できるようになったのは2020年です。

武田 そんなに最近ですか?

望月 そうなんです。首都圏とローカルではテレビデータに求める目的などに違いがあり、同じ方式になるのに時間を要したんですね。同じ方式で測定することで全国視聴率が出せるようになっただけでなく、視聴人数も示せるようになりました。視聴率事業の進化の中で、人数が出せるようになったことは大きかった。ローカルでは独自の放送以外に全国ネットで同じ放送を流すことももちろんあるわけで、同じコンテンツを日本中でどのくらい見たかがわかれば、かなり興味深いデータになります。

知花 その数字、すごく知りたいです。

望月 例えば、2022年に開催されたFIFAワールドカップのカタール大会。全41試合のうち、いずれか1試合を1分以上見た人数を調べると、約9300万人というデータが出ました。ざっくりいえば、日本の人口の4分の3の人が見ていたということです。それほどのキラーコンテンツだったこともわかるし、テレビというメディアの圧倒的な力も改めて認識できます。この全国同一方式での視聴率調査が、今後いろいろな意味でお役に立てるのではないかと考えています。

知花 コロナ禍もあってワールドカップを家で見た方も多かったでしょうね。データで、その時代や流行、空気感みたいなものもわかるんですね。

望月 そうですよね。視聴率でわかるのは「番組や広告がどのくらい見られたか」ではありますが、世の中でどのくらい関心を持たれているのか、受け入れられているのかといった社会性を測る手段にもなっているんじゃないかと思います。

武田 世の中は動いているわけですからね。

感銘を受けたソニーの広告づくり

知花 望月社長は、1979年に広告代理店に入社され、営業部門でご活躍された後、2019年6月にビデオリサーチの社長に就任されました。ご自身のキャリアの中で思い出深いエピソードというと、どのようなことがありますか?

望月 広告会社では長らく営業部門におりましたので、数多くの広告主様と仕事をさせていただきました。その中で最長、30年近く担当させていただいたのがソニーさんです。「世界のソニー」としての広告づくりのお手伝いをする中で、ブランディングに対するこだわりの強さに大変感銘を受けました。ソニーさんの広告のつくり方は、他の企業とはいわば逆方向。普通は、消費者、生活者の市場性を分析して、そこに受け入れられるためにはどうしたらいいかを先に考えるのですが、ソニーさんは、商品をダイレクトに広告に載せてマーケティングします。

武田 広告の世界でいう、プロダクトヒーローですね。

望月 ソニーさんの考えの核にあったのは、商品を出すことでマーケットを開拓するという精神だったと思うんです。既に存在するマーケットに後から商品を出すより、ウォークマンのように、まったくなかったマーケットを創造して商品を前面に出し、これはこういう商品だとダイレクトに伝える。マーケットの規模も、最初から巨大なものをつくるのではなく、あらゆるクラスターのオピニオンリーダーに理解してもらってつくり上げていく。つまり、初手からロイヤルカスタマー、ファンになる顧客をつくるわけです。

武田 たしかに、ソニーファンは、とことんファンですよね。

望月 今思うと、あのやり方はすごい。最新のマーケティング理論では、とにかくロイヤルカスタマーをつくって、顧客と一緒にブランドを育てることが常道になっていますが、ソニーさんはそれを何十年も前からされていた。非常に参考になりました。

苦難の末、視聴率調査レポートの第1号が発行されたのは1962年12月22日。公正性を優先して印刷の版下にはコンピュータの出力紙がそのまま使われたため、数字が不鮮明な箇所も多々。

清廉潔白で知られた森崎実初代社長。公正・中立を守るその精神は今に引き継がれている。

創業初期のテレビ視聴率測定器設置風景。各家庭に取り付けられていた初期の機器は非常に大きなものだった。

テレビ視聴率に続き、1990年代からはラジオ聴取率の調査も開始した。

ビデオリサーチの調査のデータと株式会社radiko保有のデータを用いて、日々のラジオ聴取状況を推計する仕組みを構築。推計結果を「ラジオ365データ」として提供している。

テレビもラジオも時間軸からコンテンツへ

知花 ビデオリサーチは「テレビの視聴率」が有名ですが、ラジオの聴取率も長く調査されているのですよね。

望月 プリントメディアも含め、マスメディアの測定が我々の事業の大きな柱です。ラジオも長い期間、聴取率として測定、調査をしてきました。

知花 ラジオ聴取率の分野でイノベーションを起こされていると聞きました。

望月 イノベーションかどうかはわかりませんが、方法は進化していますね。ラジオに関しては、現在、首都圏と関西圏と中京圏の3つのエリアに限り、年に何回という決められた回数だけ調査をしています。ただ、当たり前ですが、ラジオは毎日放送されていますから、ラジオ放送局にとっても、広告主にとっても、広告会社にとっても日々のデータには非常に興味のあるところですよね。そこで、radiko のデータを使わせていただき、ビデオリサーチのサンプリングデータを組み合わせ、日々のラジオ聴取状況を推計する仕組みを構築して、推計結果を「ラジオ365データ」として提供しています。

知花 radiko はスマホやパソコンでラジオが聴けるサービスですよね。すごく便利で、私も利用しています。ライブでも聴けるし、好きな番組をもう一度聴くこともできるし、電波が危ういところでもスマホで聴けますから。

武田 当番組のリスナーの中にもradiko で聴いておられる方、多いと思います。

望月 それに、全国の放送も聴けますよね。radiko が出る前まではラジオ受信機を買う必要があったけれど、それが今スマホで時間という枠も超越して聴くことができる。よく「フロー型」から「ストック型」へ、という言い方をされますが、ラジオのメディアの概念は、飛躍的に進化しました。我々もこのラジオという音声コンテンツをあまねく測定していきたいと思っているところで、「ラジオ365データ」を進化させ、すべての音声データを測定していく方向に進みたいと思っています。

武田 私たちの番組の価値も上がりそうです。

知花 気になりますね。ところで、2022年に60周年を迎えられ、今、全社的に大幅な変革を行っているそうですね。会社のロゴマークもおよそ25年ぶりに新しくなったとか。

望月 メディアの変化というのは本当に大きい。言うまでもなく、我々の思考や態度はメディアからの情報によって大きく変わるし、決定づけられもします。ですから、メディアのあり方に沿って我々は進化しなければいけないと思っています。

「バズ」の数でコンテンツの質を数値化する

知花 そんなビデオリサーチさんが今、力を入れていることはどんなことがありますか?

望月 テレビメディアが今激変しています。テレビのコンテンツはオンエアで配信されるだけではなく、オンライン上で見られるものでもあるわけで、テレビ受像機をインターネットに接続してテレビを見る「コネクテッドTV」の普及率は、関東地区では70%近い。これまでテレビの視聴率は、何曜日の何時に何の番組が放送され、そしてその視聴率はどれくらいか、という時間軸で考えられていましたが、今、放送局は、コンテンツ、番組がどういう形で視聴者のところに届いていくか、つまりコンテンツを中心に置いた事業モデルに変容しつつあります。

武田 何曜日の何時に何チャンネルを見ている、ということだけでは足りなくなってきているのですか?

望月 そういうことです。我々も、動画コンテンツを正確かつ迅速に測る方向に変えていかないと、今ビジネスモデルを変えようと努力している放送局の状況から遅れる可能性がある。大きなテーマだと捉えています。

知花 一消費者としても、今までしてきたことや社会の価値観ががらっと変わるタイミングなのかなと感じていますが、まさにその時期なんですね。

望月 もう一つ大きなポイントがあります。コンテンツの質という問題です。

武田 時間軸からの変化以外に、質に関する問題もあるということですか。

望月 はい。率の話はある意味単純ですが、質には確かな価値観が伴います。実はこの問題は長らく議論されてきました。テレビのコンテンツを測定する係でありたい我々としては、なんとしても質は測定しないといけない。そこで一つのトライアルとして、質を数値化した「Buzz ビューーン!」というサービスを始めました。

知花 よく「バズる」と言いますが、あの「バズ」ですね。

望月 バズは数ですから測定できます。バズの数を測定するということで数値に置き換えるメソッドを開発したのです。バズには、ポジティブ、ネガティブ、その中間、いずれもありますね。これを測り、データにして提供するのが、我々の新しいサービスである「Buzz ビューーン!」です。

武田 バズが起こったということは、そこに質的な共感があったと見なせるわけですね。

望月 そうです。あくまで一つの考え方ですが、ポジにしろネガにしろ、とにかくバズりたくなるモチベーションがあったわけです。バズがすべてではないとしても、数値として表す方法の一つではある。今、動画コンテンツの測定に「Buzz ビューーン!」の数値がどう関わるのかを研究していて、一定の解答が出れば新しい視聴率のあり方に近づくのではないかと思っています。

知花 では、最後の質問です。100年後の未来、ビデオリサーチはどんな会社になっていると思いますか? またはどんな会社になっていてほしいですか?

望月 メディアから発する情報の価値を数値化することに、変わらず携わっていたいですね。ただ、100年後には、価値の測定でもAIが活躍する世界になっているはず。今は事後に調査して結果を見るというのが常識ですが、技術が進めば、放送前にAIで調査することも可能でしょう。そうすれば動画コンテンツを世に出す前にいろいろな調整ができ、失敗する確率を低くできるはずです。視聴者の価値観を最大化するための事前の測定、さらにはそれをもとにしたコンテンツの創造といった役割を担い、結果として社会が正しく成長していく一助となる存在でありたいと思います。

会社情報
株式会社ビデオリサーチ

ゲスト

望月渡(もちづき・わたる)

1979年中央大学法学部卒業後、株式会社電通入社。営業局にて多くのクライアントを担当。同社執行役員、取締役を歴任。2019年6月に株式会社ビデオリサーチ代表取締役社長に就任。