JOURNAL とは?

1996年、学生ベンチャー[エイベック研究所]としてインターネットの大海に船出したクオン株式会社。世界の誰もがつながりうる社会に「コミュニティ(多様で生き生きとした、高品位な双方向ネットワーク)」を実現すべく、目まぐるしい技術革新や経営環境の変化に対応しながら、今日まで航海を続けてきました。このJOURNALは、ソーシャルメディアの台頭に見られる「つながる時代」に、ネットワークのクオリティ(Quality Of Network)の追求が重要なテーマと考えて社名に冠した、クオンの代表 武田隆が、各種メディアでの対談を通じて多くの企業経営人やアカデミアなどの識者から得た「学び」を掲載した「クオンの航海日誌」であると同時に、今もなお多くの人々にとって“気づき”につながる示唆を含んだ「知の議事録」でもあります。JOURNALの2本の柱「企業の遺伝子」「対談:ソーシャルメディア進化論」に通底する、事物の「量」では計りきれないその多様な内容に向かう眼差しが、インターネット時代を生きる皆様の羅針盤になれば幸いです。

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企業の遺伝子とは?

全国に546万社以上あると言われる日本の企業。そのそれぞれに理念、使命、時代を超えて受け継がれる個性があります。2012年から続くラジオ番組「企業の遺伝子」は、成長する企業の遺伝子の解明をテーマに、企業の経営者や社員の方をゲストに迎え私たちの心を揺さぶる色とりどりの企業の生命のストーリーを語っていただいく番組です。こちらのアーカイブでは、その内容を記事として掲載しています。 さらに書籍化した『企業の遺伝子』も、年に一回発刊しています。
(「企業の遺伝子」プロジェクトの詳細はこちら

スポーツを愛するすべての人をハッピーに

クロススポーツマーケティング株式会社

<ゲスト>代表取締役社長/ゼビオ株式会社副社長執行役員 中村考昭さん

※2023年 収録

誰でも、好きなスポーツが楽しめる環境づくり。その取り組みの先に、みんなが生き生きと歳を重ねる、元気な長寿社会が見えてきます。

知花 クロススポーツマーケティングは、主にスポーツのチーム、リーグ、アリーナなどの運営を通じて、スポーツ市場の活性化を目指している企業です。まずは会社の成り立ちを教えていただけますか。

中村 私どもの親会社は、ゼビオホールディングスといいまして、スーパースポーツゼビオですとか、首都圏ならヴィクトリアやヴィクトリアゴルフといった、スポーツ用品のチェーン店を展開する会社です。クロススポーツマーケティングは、このゼビオグループで、小売りではなく、スポーツ関連のマーケティングを担っています。

知花 例えばどんな事業を行っているのですか?

中村 スポーツに関するライツマネジメント、デジタルマーケティング、アセットマネジメント、グループリテールマーケティングと、あらゆるスポーツ関連の事業を展開しています。スポーツを楽しみたい人たちの声に耳を傾け、環境を整備していけば、スポーツの振興や人々の幸福につながり、スポーツ産業全体の可能性も広がります。そのために、いろいろな取り組みを行っていくのが当社の役割です。

事業の多角化に熱心だった創業者

知花 具体的には、どんな取り組みがありますか。

中村 日本の国民的スポーツといえば、やはり野球は代表格ですよね。プロ野球を観戦するだけでなく、アマチュア野球でプレーを楽しむ人も多い。例えばそういう方たちのために、MLBと共同で、軟式野球 のクラブチーム(草野球チーム)によるオープン大会、MLBドリームカップsupportedby XEBIO Group ※1を運営しています。
※1 2024年度から「ゼビオドリームカップ」に。

知花 ほかのスポーツについてはどうでしょう?

中村 東京2020オリンピックから、3人制のバスケットボール「3×3 スリー・エックス・スリー」が正式種目と
なったのを、覚えておられるでしょうか。そのプロリーグや、アマチュア大会の企画運営なども私たちがやっています。

知花 おもしろそう! あとでぜひ、詳しく聞かせてください。さて、クロススポーツマーケティングの親会社である、ゼビオホールディングスですが、この会社はそもそもどのように始まったのですか?

中村 ゼビオの創業は1962年でして、実はスーツ販売からスタートしたんです。

知花 スーツって、洋装のスーツですか?

中村 ええ、高度経済成長下の日本では、ビジネススーツとか、結婚式に着ていくスーツとか、スーツを着る機会が目に見えて増えていきました。そのタイミングで、スーツ販売を始めたのです。

武田 どちらで創業されたのですか?

中村 創業は福島県のいわき市で、現在の本社は福島県郡山市にあります。

知花 スポーツ用品事業に乗り出したのは、いつだったのですか?

中村 創業社長の諸橋廷蔵(もろはしていぞう)は、事業拡大に非常に熱心な人で、会社の先輩方によると、それこそ新巻鮭まで売っていたことがあるそうです(笑)。スポーツの領域にも、早い時期から取り組むようになったようですね。1979年には、ファッションとスポーツがテーマの大型店を福島市に、83年には、郊外型スポーツ店を郡山市に出店していますから。

知花 スポーツが主要事業に成長したポイントって、何だったと思います?

中村 そうですね、スポーツの世界を見渡してみると、大谷翔平選手のように、素晴らしい輝きと社会的な影響力を兼ね備えた、トップオブトップスの無敵のアスリートがまずいるじゃないですか。そしてもう一方には、試合に負けるチームもあれば、そのチームのベンチにすら入れない人も、数えきれないほどいる。でもその人たちも、トップアスリートに負けないくらい、心からスポーツを楽しんでいるんです。

知花 勝ち負け以上に、純粋にスポーツが好きなんですね、きっと。

中村 スポーツ人口のピラミッドを支えているのは、そういう無数のスポーツ愛好家なんですよ。私はこうした方々にこそ、一握りのトップアスリート以上に、もっともっと輝いてほしいのです。ゼビオもまったく同じ思いで、一般のスポーツ愛好家にスポットライトを当て、さまざまなスポーツ事業を展開しています。

「与して生じ、求して滅す」

知花 中村さんは大学卒業後、リクルートやコンサルティング会社、スポーツマーケティング会社などを経て、2010年にゼビオに入社されました。その頃のお仕事で、印象に残っているものはありますか?

中村 すごくたくさんありますよ。世界に先駆けて、3人制バスケットボールのプロリーグをゼロからつくり上げたこと、民設民営のアリーナをつくったこと、軟式野球のMLBドリームカップを立ち上げたことなど、いろいろです。

知花 パイオニアだなあ。

中村 ゼビオグループには、人々の多様な生活を応援したいという思いがありますからね。人とスポーツの関係も多様で、それぞれ個性的ですから、サービスを提供する側も新しい挑戦の連続です。常に新風を呼び込もうとコミットし続ける情熱は、グループのDNAであり、私たち個々のスタッフにも脈々と流れていると思います。

知花 前社長の社長室には、会社の精神につながる言葉が書かれていたそうですね。

中村 社長室に漢字4文字が彫られた1枚のお皿が飾ってあります。以前、ソニーの出井元社長がうちの郡山本社へ来られた時、それを見て「何て書いてあるの?」と、私にたずねられたのですが、達筆すぎて読めなかった。確認したところ、「与(よ)して生じ、求(ぐ)して滅す(めっす)」※2という言葉だとわかりました。創業社長がすごく大切にしていた言葉だったそうです。
※2 「魅は与によって生じ、求によって滅す」。経営者の敬愛を集めた、無能唱元禅師(1939年~2011年)の言葉。

知花 難しい言葉ですね。その「こころ」は?

中村 「与して生じ」は、人々が求める環境、社会、サービスなどを、我々が率先してつくり提供していけば、会社はおのずと成長するという意味です。反対に、自分が得ることばかりを考えていると、「求して滅す」で、会社は衰退してしまう。だから常に人々のニーズと向き合っていかなくてはと、創業社長は考えたのでしょう。これも今に続く当社のDNAです。

知花 深いですねえ。

武田 「与して生じ」というのは、ギブアンドテイクとは違うんですね?

中村 ギブアンドテイクは、「これをあげる代わりに、それをもらうよ」という、いわゆる交換ですよね。でも「与して生じ」は、「人に与えることで、自分が得るものも自然と生まれてくる」ということだと思うんです。つまり、人のために何かすれば、自然と自分のプラスにもなる。そんなふうに、自分なりに解釈しています。

アマチュア野球のための夢の舞台

知花 中村さんはゼビオ入社からおよそ1年後、クロススポーツマーケティングの代表取締役に就任されました。そして手がけた事業の1つが、MLBドリームカップです。どんな事業か、改めて教えていただけますか。

中村 そうですね、これはアメリカのメジャーリーグベースボールMLBと連携して、日本の軟式野球チームが競い合う、夢の大会を開催する事業です。

知花 あらま、名前そのまま(笑)。

中村 ひねりがなくて恐縮です(笑)。野球というのは日本の国民的スポーツであり、生涯スポーツでもあります。河川敷や運動公園なんかに野球ができる場所があって、休日には大人も子どもも嬉しそうに野球に興じている。そういう風景が、日本の日常には今でもあるでしょ。そうやって、いくつになっても野球に夢中でいる方々のために、夢のような晴れ舞台を用意できたらいいなと思ったわけです。

武田 まさに草野球チームのドリームカップですね。

中村 軟式野球をやっている身近な人、それこそ職場で隣の席に座っている同僚や、町のチームなんかが出場するわけですよ。勝ち進めば、アメリカのサンディエゴにある、ペトコパークというスタジアムを借り切って、決勝戦に臨むことも夢じゃない。もちろん飛行機代も、ホテル代も、我々が提供してね。

知花 すごくないですか、それ。

中村 スタジアムアナウンスも大型ビジョンも全部つけて、メジャーリーグと同じような環境で、試合をしていただくのです。

知花 そこまでやるんだ。お金もかかるだろうなあ。

中村 お金はもちろんかかりますよ。でもMLBさんもゼビオグループも、投資に関しては積極的です。スポーツを愛するアマチュアの人たちに、チャンスを提供したい、輝いてもらいたいという価値観を、すごく大切にしているからです。

3人制バスケプロリーグ3×3.EXE PREMIER の試合風景。名古屋の立体型公園オアシス21にて。

軟式野球チームの全国最大規模のオープン大会、ゼビオドリームカップの様子。

ゼビオアリーナ仙台。「アリーナスポーツ」や「エンターテインメント」の魅力を最大化することがコンセプト。

誰もがスポーツを続けられる環境を

知花 ドリームカップには、何チームくらいが参加するんですか?

中村 数年はコロナの影響がありましたが、それでも全国で約400チームが参加しました。

知花 軟式野球をやっている人たちは、絶対、挑戦したいだろうなあ。

中村 日本の場合、高校野球という大きなピークがあって、野球少年たちはまず甲子園を目指しますよね。そして高校を卒業すると、大学で野球を続ける人や、プロに入る一握りの人を除いて、ほとんどの人が野球を離れてしまうんですよ。

知花 たしかにそうですね。何だか残念。

中村 そうなんですよ。いったんグラウンドを離れても、やっぱり野球が好きだという人は、たくさんいますからね。そういう人たちが、歳を重ねても野球を続けられる環境がつくれたら、素晴らしいだろうなと思うんです。

武田 ドリームカップも、そのための仕掛けの1つですね。

中村 高齢化時代というけれど、1人ひとりがスポーツをする期間が長くなれば、スポーツ人口は維持できます。しかも、野球をする人がゴルフもするというふうに、1人の人が2つのスポーツをすれば、延べのスポーツ人口を増やすことだって可能です。私たちはそこをすごくポジティブに捉えていて、より長く、より楽しく、そして健康的に、皆さんにいろいろなスポーツを続けてほしいと考えているんです。

知花 野球以外にも、今、力を入れているスポーツはありますか?

中村 3人制バスケットボール、3×3には、以前からすごく力を入れています。2014年には世界で初めて、3×3のプロリーグ3×3.EXE PREMIERを立ち上げ、国際バスケットボール連盟FIBAの承認を得ました。

知花 3人制バスケにもプロリーグがあるって、知りませんでした。

中村 今では日本だけでなく、オーストラリア、タイなど、世界のさまざまな国や地域から100チーム以上が参加する、国際的なプロリーグに育っていますよ。

ダブルキャリアで活躍可能なプロリーグ

知花 3×3.EXE PREMIER はチケットを購入すれば、私たちも試合が見られるんですか?

中村 それがですね、ふつうプロリーグって、チケットを販売して体育館やアリーナで試合をやりますよね。チケットが買えなかったお客さんには、テレビやインターネットで中継を見てもらうのが、一般的なモデルです。でも3×3.EXE PREMIER の場合、アリーナや体育館といった閉鎖された空間では、試合をやっていないんです。

知花 え、どういう意味ですか?

中村 駅前広場とか、地域のお祭が行われる神社の境内とか、人がたくさん集まるオープンスペースを使って、試合をするんです。

知花 なんと、オープンスペースで。

中村 競技場を借りて試合をすれば、施設使用料とか、チケットを販売するためのお金とか、いろいろ費用がかかりますよね。その点、広場や神社の境内みたいな、すでにあるインフラを使えば、そういうコストはゼロです。しかも我々がその場所を利用することで、試合を観にくる人がたくさん集まって、そこに賑わいが生まれます。

知花 でも無料で試合を見せちゃったら、収益はどうやって?

中村 ショッピングセンターなんかでは、イベントの主催者さんがお金を払って、アイドルの握手会や、ヒーローショー、お笑いのライブをやっていますよね。同じように、3×3.EXE PREMIER を呼んでいただくのです。そうすれば、施設を訪れた人は誰でも無料で観戦できるというわけです。

武田 ノマドみたいに移動して、行く先々の場所を会場にするんですね。

中村 ええ。例えば平安神宮、焼津の漁港、タイではヒンドゥー教寺院の前とか。

知花 楽しそう。だけど選手の人たちは、食べていけるのかしら。

中村 今はいろいろな分野で、複数の仕事や専門性を持つことが、珍しくない時代ですよね。プロのスポーツ選手だって、そのスポーツ一本でやらなくてもいいと思いませんか。もちろんプロとしての時間やプレーには、我々はきちんと正当な対価を支払います。でも選手は、ほかに副業を持ってもまったくかまわない。この点も、ほかのプロリーグとの大きな違いです。

武田 きちんとパフォーマンスできるなら、専業でも兼業でもいいわけですね。

中村 そうです。我々はその人の人生すべてを3×3に拘束して、それに対して報酬を払うという考え方ではありません。ほかにも才能があるのなら、それもどんどん活かして、マルチキャリアで活躍してくれればいい。

知花 例えばどんな職業の選手がいるんですか?

中村 弁護士や会計士とのダブルキャリアという人や、タレントの仕事と兼業という人もいますよ。世の中のあらゆる職業との組み合わせがあっていいと思っています。

スポーツ業界が「普通の職場」になる未来

知花 100年後の未来、クロススポーツマーケティングはどんな会社になっていると思いますか? またはどんな会社になっていてほしいですか?

中村 スポーツマーケティングという仕事は、たぶんまだあまり知られていないか、あるいは漠然と特殊な仕事のように思われている、そんな職種の1つでしょう。だからこそ近い将来、選手でも監督でも、コーチやトレーナーでもない一般の人たちが、スポーツをめぐるいろいろな仕事に携わる、そういう社会になるといいなと思うんです。

知花 会社員としてスポーツ業界で働くわけですね。

中村 自動車業界で働く人はたくさんいます。それは社会にとって自動車がなくてはならない存在で、社会に定着しているからです。スポーツもそうあってほしいし、100年後のクロススポーツマーケティングが、その象徴のような存在になっていると嬉しいですね。

会社情報
クロススポーツマーケティング株式会社

ゲスト

中村考昭(なかむら・たかあき)

1972年生まれ。一橋大学法学部卒業。リクルート、A.T. カーニー、スポーツマーケティング会社を経て、2010年5月ゼビオ入社。2011年4月クロススポーツマーケティング株式会社代表取締役社長、2015年10月ゼビオホールディングス株式会社副社長執行役員。Jリーグ東京ヴェルディ代表取締役社長、アジアリーグアイスホッケー東北フリーブレイズ代表取締役オーナー代行、3×3プロバスケリーグ3×3.EXE PREMIERコミッショナー。